診療所の設計③~プランニングに見られる2つのパターン~
“病院”と“診療所”では、組織の構成が違うために、設計の仕方が違うというお話をさせていただきましたが、まずは具体的な例をあげて説明させていただきます。
【図1】はある新規開業をお考えになっていた整形外科の先生がお持ちになった計画です。
※注:先生は左利きで、トイレは共用のトイレを使うことを前提
この計画は、ある新規開業をお考えになっていた整形外科の先生が設計事務所と一緒に考えた案なのですが、その設計事務所は先生に「このテナントは小さくて変形しているので、こんな感じの計画以外は考えられない」と話をしていたそうです。

私は開業コンサルタントを通じて、この先生のご相談をお聞きするように依頼されたのですが、その先生は私に、
「リハビリ室が小さい(約11坪)ので、リハビリ機器があまり置けない。設計にはこれ以上無理と言われた」「すっきりしているように見えるが、動く距離が長く、動線が交錯しているように思える」・・・といったような事をお話されていました。先生のご相談を元に描いた私のプランが【図2】です。
このプランでは、同じテナントの大きさなのに、約11坪しか取れないとされていたリハビリ室が図面の状態で約18坪、パーティションなどを外す事で最大で22坪まで拡大可能である上、車椅子利用者対応の便所まで設置できています。また、受付⇔診察のカルテのやり取りがカルテパスを用いて、壁一枚でやり取りできたり、レントゲン室のとの連携が、無駄な動線無しで動けるようになっているのがわかっていただけますでしょうか?

【図1】のようなプランが悪いとは言いませんが、私が考えるに【図1】のような計画よりも、【図2】のような計画の方が、小さくて兼務作業が多い小規模な診療所には向いているのではないかと考えているのです。もう少し、特徴を分析してみます。これらの計画を模式的に表現すると【図3】、【図4】のようになります。
【図3】と【図4】を比較して、大きな違いを見出すとすれば、“廊下”の扱いです。
【図3】のプランは廊下に対して別の機能を持った各室が枝分かれしてひっついている感じの模式ですが、
【図4】のプランは廊下を最小限にして各室を隣り合わせることで計画を構成しています。又、
【図3】の計画では各室は単独の機能(例えば、スタッフルームはスタッフルーム以外には使えないし、レントゲン操作室も操作室以外には使えないなど)を持っていますが、【図4】の計画では重複した機能(スタッフルームは受付バックヤードや廊下を兼ね、診察室や処置室のバック通路は準備コーナーや廊下、レントゲン操作室など)を兼ねています。
【図3】のようなプランをこの一連のコラムでは“線型プラン”(ぶどう型プラン)、
【図4】のようなプランを“面型プラン”(みかん型プラン)と呼ぶことにしますが、私は、線型プランは病院や大企業などの大規模で分業が進んだ組織向きで、面型プランは小規模な組織に向いているように思えます。線型と面型の特徴を表にまとめてみますと【図5】のようになります。
表で書かせていただいていますが、小規模診療所では、できる限り、先生が普段居られる場所である診察室をプランの中心に持っていくことが理想的であると言われています。それは、病院の場合と違い、先生が診療所内で起きている事をできるだけ“感じ取れる”ようにするためです。例えば、診療所の端に診察室があれば、先生は反対の端の部屋で起きている事は何も感じ取る事ができません。それが、壁一枚向こうで配置されていれば、開業されて何年も経つと、壁の向こうでの様子が何となく感じ取れるようになってくるものです。又、これも表で書かせていただいておりますが、線型のプランではプライバシーが守られやすいのですが、面型では壁に防音性能を持たせたとしても線型ほどは守りにくいと言う傾向もあります。その半面、職員間の連携で見ると線型よりも面型の方がコミュニケーションを取りやすい傾向があります。もちろん、線型、面型を完全に区別するのは良いとは思いませんし、病院でも全体が線型で計画されていても、内科部門や事務部門など部門ごとで見るとその室自身は面型で計画されている事も多くあります。また、病院と小規模診療所との中間的な位置づけとなる中~大規模名診療所では、線型と面型を組み合わせて計画する方が良いかもしれません。
前にも書きましたが、書籍やインターネットで書いてある診療所の設計の本の多くは、このような計画の中で線型の計画の仕方の紹介はしているものの、面型の紹介や、そもそもこうした2つの考え方があること自体、説明されてはいません。診療所の設計の経験が浅い設計者が、線型で計画してしまうのも、書籍やサイトの情報、又、大学などで教えられているプランニングの仕方が、一見、機能的で近代的な線型に偏っていると言うことに起因しているとも言えるでしょう。
この線型、面型の考え方については、私の住宅のデザインリフォームはじめ、他の物件のプランニングの場合でも、重要な骨子となっていますので、他のコラムでも取り上げる事になるかと思います。
株式会社コンパス 長渡和久(一級建築士)









